よくあるトラブルと解決のヒント

サワードウのパン作りは、酵母や乳酸菌などの「自然の力」を借りてパンを育てる営みです。
だからこそ、天気や温度、材料やタイミングによって、思うようにいかないこともあります。

このページでは、よくあるトラブルの原因と対策を整理しました。

◆トラブル別チェックポイント一覧

スターターが泡立たない・発酵しない

考えられる原因:温度が低い・酵母が少ない・時間不足
・気温が低い(20℃未満)と発酵がすすみにくい
・水道水の塩素やカルキが発酵の妨げになることもある
・粉に含まれる微生物や栄養が少ない(精白された小麦粉のみ使用など)
・培養がまだ安定していない初期段階

解決のヒント

・30℃以下のぬるま湯+浄水器の水を使用
・初期は酵母や菌が豊富なライ麦や全粒粉を混ぜると発酵が活発になる
・気温が低い時期は保温ボックスや発酵器で25〜28℃をキープ
・初期のスターターは「2〜3日で完成」しないのが普通です(5〜14日が目安)

スターターの元気がない/酸っぱくない/酸味が強すぎる/泡が弱い

考えられる原因:餌不足/過発酵/古くなっている
・泡が小さい
・酸っぱい香りが感じられない
・シュワシュワで酸味が強すぎる
・生地に混ぜても膨らみが悪い など

解決のヒント

対処法:
・スターターのフィーディングをしてみる(スターター:粉:水=1:2:2の割合を1日1~2回)
・フィーディングの際に1g程度の少量の砂糖を加えてみる
・常温で数時間放置してみて、倍量以上に膨らむかを確認
  常温25℃前後で6〜8時間後に2〜3倍に膨らむ状態が「元気なスターター」
・酸味がない=乳酸菌の活動が少ない →フィーディングの際に時間と温度が必要
・酸っぱいにおい(酢・アルコール臭)が強い場合は、過発酵のサイン。連続フィーディング(1:2:2比率)を数日行い、活性を戻す
液体が浮いている(フーチ) → エサ不足&空腹のサインなのですぐにフィーディングします

スターターの表面が黒くなっている/カビ?

原因:乾燥、酸化、放置しすぎ

解決のヒント

対処法:
表面の黒い液体はたいてい「フーチ」というもので、長期間放置していると自然にできるものなので問題ありません。むしろ、スターターが生きている証拠です。ただし、異臭(腐敗臭、青カビ臭)がある場合は廃棄を検討します。
フーチを見つけたらすぐにフィーディングして栄養を与えましょう。

生地がべたべたして扱えない

考えられる原因:発酵不足 or 過発酵/水分過多/生地温度のムラ/粉の特性
・加水率が高すぎる(初めての方や慣れない方は70%がおすすめ)
・グルテンが形成が不十分(オートリーズ不足、ミキシング不足)
・発酵が進みすぎて生地が緩んでいる
・粉の質がべたべたしやすい

解決のヒント

対処法:
・生地が扱いづらい場合は、吸水率を少し下げるか、粉を少しだけ追加
・オートリーズを取り入れる
・生地がダレてきたときは冷蔵庫で冷やすと少し扱いやすくなる
・ホイロ(最終発酵)を温かすぎる場所で行うと、過発酵でベタつくことも
・吸水の良い粉を使う

発酵の見極めが難しい

発酵不足、過発酵になってしまう

【過発酵のサイン】
・生地の表面にしわ
・押すと凹んだまま戻らない
・酸っぱいアルコール臭
・生地がだれてグルテンが切れやすくなる

判断のポイント

【一次発酵(バルク)】
時間の目安:室温22〜26℃で 4〜8時間が目安(酵母の元気さ次第)
体積:元の1.5〜2倍に膨らんでいるか(倍以上になると過発酵のリスク)
手触り:表面がふっくら・なめらか・やや弾力あり
気泡:生地の表面や側面に細かい泡(ブツブツ)が見える
フィンガーテスト:濡らした指で生地を軽く押す → ゆっくり戻ればOK、すぐ戻る=未発酵/戻らない=過発酵

【二次発酵(ホイロ)】
時間の目安:冷蔵なら8〜24時間、室温なら1〜4時間
体積:元の1.3〜1.5倍程度(一次より控えめ)
表面:ほんのり張りがあり、ふっくらやさしくふくれている
フィンガーテスト:生地の端を軽く押す → ゆっくり戻る or 半分戻るが◎(戻りゼロ=過発酵)

パンが膨らまない/クラムが詰まっている

考えられる原因:スターターの弱さ/発酵不足/過発酵/温度が低い
・スターターが弱い(上記を参照)
・一次発酵が短すぎる、または過発酵してしまった
・グルテンの形成が不十分
・焼成前に気泡を潰してしまっている

解決のヒント

対処法:
・スターターがフィード後8〜10時間以内に2倍に膨らみ→萎む動きがあるか確認。なければ、強化が必要。
・発酵は「時間」よりも「状態」を見る(生地全体の気泡の様子、ボリューム)
・室温が低い場合、一次発酵を長くとる。(20℃を下回る冬は10~12時間かかることも)
・特に高加水の生地ではストレッチ&フォールド(折りたたみ)の回数を増やしてグルテンを育てる
・成形時に過度な押しつぶしを避け、優しく丸める
・窯伸び(オーブンスプリング)が弱いと感じたら、「焼く前の発酵具合」と「オーブン予熱の強さ」をチェック

クープが開かない

考えられる原因:発酵不足/過発酵/クープを入れるタイミング/クープの深さ・角度/スチーム不足/成形
・発酵不足だとガスが少なく、オーブンでの伸展力も弱いため、クープが割れる力が足りなくなる
・過発酵だと生地のガスが抜けて、オーブンでの伸展力が弱くなる
・クープを入れる前、室温に戻しすぎて表面が乾燥 or ダレる
・クープをいれる角度が浅すぎ・直角すぎると開きにくい
・スチーム不足の場合、 焼き始めにクラストがすぐ硬化してしまう
・成形が弱いと張りがなく、オーブン内で持ち上がらない

解決のヒント

・生地を 指で押して「ゆっくり戻る or 少し戻る」タイミングで焼成へ
冷蔵庫から出してすぐクープをいれ、そのまま焼成(室温に戻しすぎない)
クープナイフなどで「約30度の角度・1.5cmほどの深さ」でクープを入れる
スチームをしっかり入れる→ ダッチオーブンで蓋付き or 予熱時に鉄板&水で蒸気発生させるなど
成形時にしっかり生地を張る

焼き上がりの酸味が強すぎる/酸っぱくない

酸っぱすぎるときの原因:
・一次発酵や冷蔵発酵が長すぎる
・スターターのpHが低すぎる
・乳酸菌が優位な環境(高温・長時間)
酸味が弱い場合:
・スターターが若い or 活性が低い
・発酵時間が短い
・酵母ばかりが強く働いている可能性

解決のヒント

調整方法:
【酸味を控えたい】
・活性がピークに達してすぐの発酵がすすみすぎていないスターターを使う
・生地に加える本種の量をレシピの分量より少し増やす(発酵が早くなるため、オートリーズとの併用がおすすめです)
・一次発酵を気持ち短めにする
・冷蔵発酵なしで二次発酵を常温発酵にする(この場合、焼成の15分ほど前に冷蔵庫にいれて生地を冷やすとクープがはいりすくなります)

【酸味を強くしたい】
・pHの低い発酵の進んだスターターを使う
・冷蔵発酵を長くとる


◆よくある質問(FAQ)

Q. 夏はパンが酸っぱくなる気がします。
→ 発酵温度が27~28℃を超えてくると酢酸がでやすくなり、ピリッとした酸味が強くなります。仕込み水を冷水にしたり、冷蔵庫やエアコン、氷水などを活用し、生地温度を26℃以下に抑えられるようにコントロールします。

Q. 冬は発酵が進まず、発酵不足になります。
→発酵機がない場合、家で25℃程度の温かい場所を探すか、湯たんぽやお湯を入れた瓶と一緒にクーラーボックスで保温するなど工夫します。仕込み水は35℃前後のぬるま湯にするのも効果的です。

Q. 一次発酵の途中で長時間外出しなければならなくなりました。
→一次発酵完了予定時間までに家に戻ってくるのが難しい場合、一旦冷蔵庫にいれて発酵のスピードを遅くさせることも可能です。その後、帰宅してから室温に戻して一次発酵を再開します。

Q. 旅行で長期間スターターを世話できないときは?
→ スターターの強さにもよって、冷蔵庫で1~4週間ほどは保存可能です。(スターターによっては数か月もつことも)
もっと長期で保存したい場合は乾燥保存や冷凍保存もできます。